■シックハウス症候群の見分け方
 家を出ると改善するか /治療の基本「原因物質減らす」
 02/03/09 大阪読売朝刊健康面

 目の痛みやだるさが続く。でも病気は見つからない。そんな時は住まいが原因
の「シックハウス症候群」かも知れない。とりわけ建材や内装材、家具などから
出る様々な化学物質による室内の空気汚染が注目され、被害実態が次第に明らか
になってきた。 (科学部 原 昌平)

 ■ホルムアルデヒドが主犯
 NPO「シックハウスを考える会」代表の上原裕之さん(40)(大阪府四条
畷市)は一九九三年末に歯科医院を開業、約四か月後に目がチカチカ痛み始めた。
 従業員も似た症状を訴えた。医院の建物から出るとましになる。調べ回った末、
壁の合板から出るホルムアルデヒド(ホルマリン)が主犯と突き止めた。工場内
の基準0・5ppmに近い高濃度だった。
 「揮発する有害物質はたくさんあり、温度が高いほど出やすいので、夏場の濃
度は冬の数倍になる。トルエンやキシレンは半年でかなり減るのに、ホルムアル
デヒドは何年たってもなかなか減りません」と上原さんは言う。

 ■高い汚染率
 考える会は二〇〇〇年夏、大阪府を中心に全国初の科学的な実態調査を行い、
症状のない人を含めて九三軒、二百四十二人について、室内のホルムアルデヒド
濃度と健康状態を調べた。
 その結果、世界保健機関(WHO)と厚生労働省が定めた指針値(0・08p
pm)を超えた住宅が53%を占めた。症状のない人の家でも44%で、汚染の
広がりは想像以上だった。
 様々な症状のうち、目・鼻・ノドの粘膜への刺激とせき、だるさは、濃度が高
い家の人ほど比率が高いこともはっきりした。
 「合板類には農水省のJAS規格が八〇年からあったけれど、良質の材料が使
われたのは、ほんの一部。対策の進んできた最近の住宅より、九六年前後に建っ
た家に高い濃度が目立ちます」(上原さん)
 国土交通省は住宅の化学物質に初めて法規制をかける建築基準法改正案を今国
会に提出する。成立すれば、まずホルムアルデヒドの濃度基準を定め、一部の有
機リン剤を禁止する。

 ■診断のポイント
 症状に個人差が大きいので、他の病気が本当にないか、心因性ではないか、見
極めが大切だ。考える会副理事長の笹川征雄医師(大阪市)は昨年、診断基準を
作った。
 〈1〉健康障害の発生〈2〉室内空気汚染〈3〉症状の現れ方と住宅の相関関
係――の確認が欠かせず、「家を離れると症状が改善するかどうかが一番のポイ
ント。指針値より低濃度で症状が出る人もいます。治療の基本は原因物質を減ら
すこと」という。
 混同が多いのは「化学物質過敏症」。こちらも住宅が原因の場合が多いが、程
度が重く、ごく微量の化学物質、しかも多くの種類に敏感に反応して日常生活も
困難になる。自律神経系や免疫系などに障害があると考えられ、精密な機能検査
やクリーンルームでの検査を専門病院で受ける必要がある。

 ■測定と対策
 ホルムアルデヒドの測定は保健所、保健センターに相談する。大阪市など症状
があれば無料で行う自治体もある。各地の建築士会や住宅センターには簡易測定
器があり、一回五千円前後で貸し出している。他の物質を含めた詳細な測定も保
健所に相談するといい。
 対策は換気、揮発を防ぐ表面コーティング、もの自体の交換など。改修は住宅
金融公庫の融資対象になる。しかし適切な手法は確立しておらず、考える会は今
年、希望者を募って実地研究する計画を立てている。

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    《シックハウス症候群の主な原因と症状》
発生源     化学物質        症状

合板類     ホルムアルデヒド    目がチカチカ
家具類                 鼻がヒリヒリ、鼻血
フローリング              ノドがかわく
断熱材     トルエン        せき、ぜんそく悪化
ビニールクロス キシレン        だるさ、肩こり
塗料      パラジクロロベンゼン  頭痛、めまい
難燃剤     スチレン        イライラ、うつ、不安
接着剤     フタル酸ジエステル   皮膚のかゆみ
たたみ     殺虫剤         どうき、ほてり
木材      防カビ剤        吐き気、下痢、便秘
土壌      シロアリ防除剤     手足のしびれ、冷え

(注)各行の発生源、物質、症状が左右に対応するわけではありません。

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 <主な相談先>
◇NPOシックハウスを考える会
 0743・79・9103、79・9153
 〒575・0013四条畷市田原台4−5−27
 

◇NPO化学物質過敏症支援センター
 045・222・0685
 〒231・0006横浜市中区南仲通4−39   
 http://homepage2.nifty.com/cs-center/

◇(財)住宅保証機構=簡易測定器の貸し出しを紹介
 03・3584・5748
 http://www.ohw.or.jp/

◇住宅紛争処理支援センター
 03・3556・5147
 http://www.chord.or.jp/shienc/index.htm

 <主な医療機関>(*はクリーンルームあり)
*国立南岡山病院アレルギー科(岡山県早島町)
*国立高知病院アレルギー科(高知市)
 関西医大耳鼻咽喉科(大阪府守口市)
*国立南福岡病院アレルギー科(福岡市南区)
 国立名古屋病院皮膚科(名古屋市中区)
 総合上飯田第一病院小児科(名古屋市北区)
*北里研究所病院臨床環境医学センター(東京)
*国立相模原病院アレルギー科(神奈川県)
 笹川皮フ科(大阪市城東区)
 羽田内科(大阪市中央区)

◆写真=ホルムアルデヒドの簡易測定器を持つ上原さん。「手間も費用もそれほ
どかかりません」(四条畷市のシックハウスを考える会事務所で)